「いのちの未来」Creator’s Voice Vol.4 ~栗林和明~ 50年後の未来 クリエイティブディレクター

「いのちの未来」Creator’s Voice Vol.4 ~栗林和明~ 50年後の未来 クリエイティブディレクター

CHOCOLATE Inc.
栗林和明さん

普段の仕事内容

CHOCOLATEという会社でクリエイティブディレクターをしています。普段は映像、広告、体験などさまざまな領域の企画を行っています。特に現在は劇場アニメの監督も務めています。

「いのちの未来」における役割/パビリオンでの担当とその内容

「ZONE2 50年後の未来」において、シナリオ開発、体験全体のディレクションを担当しました。

パビリオンや展示、制作物のコンセプトをどう捉えたか

最初は理解できなかったというのが本音です。先生が考えられていた未来のイメージは、多くの人が思い描くような「ザ・SF」的な未来よりももっと深く、いかにして人がアンドロイドと共存するのか、その可能性がいかに拡張していくのか、というものでした。当時の私の感覚ではまだその部分のイメージがつかなかったのですが、何度も何度も先生と議論をすることでイメージできるようになり、コンセプトとも向き合えるようになりました。

プロデューサー 石黒浩との関わりで印象に残っていること

顔合わせを行った最初の打ち合わせで石黒先生から言われた「君の描いた未来には絶対にならない」という一言が今でも忘れられません。先生から50年後どうなっていると思う?と聞かれて、ちょうどそのときにつくっていたアニメのコンセプトアートを見せて「こういうワクワクする未来になると思います」と伝えたときに言われた言葉です。その絵には、みんながロボットになって、空を飛んで……といった「ザ・SF」的なイメージを描いていました。一方、先生からは「もともと持っていた伝統文化がもっとにじみ出てくる未来」、「より自然と共生した新しい社会」といったイメージや考え方を聞かせていただき、とても腹落ちしました。

こだわり

まずは、「訪れた人に対して50年後の未来の答えを提示するのではなくて、問いを与えるような体験にすること」をお題としていただいたため、そこにこだわってつくりました。未来の疑似体験というのは非常に難しく、映像で未来を見せられても他人事に感じたり、机上の空論に見えてしまいがちです。それをいかに「確かにこんな未来が来るかもしれない」という実体感をどこまで生み出せるかというところを大切にしました。

二点目は、「描いたからには責任を持たなければいけない」という決意をもって取り組むことです。私たちが設計したシナリオや体験の元となったのは「共創プロジェクト2025」参加企業(以下、共創企業)の各分野のスペシャリストのみなさんが徹底的に議論し尽くし、決定したアイデア。机上の空論ではなく、本当にこういう技術は実現できるかもしれない、つくるべきだという議論を経て生み出されたものだったからこそ、「ザ・SF」な未来ではなく「責任を持てる未来を描く」ことにこだわりました。

三点目は、「いかに最小限にするか」ということにこだわりました。未来に存在していそうなモノをつくろうとすればするほど、どこかチープな感じになってしまい、結局は現在存在しているものになってしまう……という「未来を描こうとすればするほど、未来に見えなくなる」ということに制作過程で気づきました。そこで私たちがたどり着いたのは、徹底的に見る人の想像力に委ねようということ。例えば電車を描くときには椅子と窓のフレームはあるけれどそれ以外は一切描かない。ライティングチームや音響チーム、美術のチームに力を貸してもらって、ライトで空間のムードをつくったり、その場にいるように感じられる音響をつくったりといった工夫をすることで、見る人の想像力の余白を使い未来を感じてもらう、という方法を見いだしました。

挑戦、工夫

石黒先生はもちろん、共創企業のみなさんそれぞれが「こういう未来が本当にあり得ると思うから、シナリオの中に盛り込んでほしい」という熱い思いをお持ちでしたが、一本の軸、ひとつの体験の中にそれらを盛り込んで心を動かすストーリーにするというのは、簡単なことではありませんでした。まず形にならないと良いか悪いかも判断できないと思ったため、徹底的にプロトタイプをつくっていきました。ストーリー、模型を使った体験の流れをプロトタイプとしてまずつくる。それに対して意見をもらったら、一回考えたことをリセットし、再構築して……ということを2年間ずっとやり続けていきました。そうすることで関わる人たちが想像しやすくなり、どんどんクオリティが上がっていきました。

新たな発見

この時代、SNSを使って「わかる人にだけわかってもらえたらいい」というスタンスで、狭く深く届けることがやりやすくなったことは喜ばしい一方で、今回のような“大きなもの”をつくる機会はすごく大事だなということを発見しました。建築、衣装、映像など各分野の専門家、石黒先生のような学者の方々など、無数のスペシャリストの方々が関わっていて、年齢も若い方からベテランの方まで幅広くて……。そのようなみなさんの修練され続けてきた知恵、新しい知恵がフルで活用されたからこそ、老若男女、さまざまな国籍の方々の心を動かすことが実現できたと思っています。大変貴重な経験でした。

プロジェクトで得た学び

当たり前のことかもしれませんが、何かを表現するときには「哲学」が大事だということです。このパビリオンもすごく強い哲学があるからこそ、そこから生まれる問いはあらゆる人に影響を及ぼして、人生の行動の選択肢を増やすものになり得る、価値がある、普遍的なものだと感じました。哲学を持つには、常に「どういう価値観が広がるべきなんだろう」とか、「どういう世の中になっていくとよいのだろう」というのを考え続ける必要があるということ、そういうことを意識して表現を磨いていくプロセスが大切だということが一番の学びでした。普段の仕事で関わるアニメ、広告、商品……といったものが消費されないようなものにするためには哲学がすごく大事なんだなということを感じています。

注目してほしいポイント

アンドロイドの瞳を見てほしいです。私自身、初めてアンドロイドと対面したときに目が合ってすごくドキッとしました。「本当にこのアンドロイドには“いのち”があるのではないか」ということを感じたからです。来場者の方からもそういった声をよく聞くので、ぜひ一体一体のアンドロイドの瞳を見て目が合ったときに果たしてどういうことを感じるのか、ということに着目してもらえたらなと思います。