【開発秘話♯8~建設編~】シグネチャーパビリオンの中で最も早く建物が完成!実現のプロセスと思い

【開発秘話♯8~建設編~】シグネチャーパビリオンの中で最も早く建物が完成!実現のプロセスと思い

建築チームが石黒チームとつくりあげた「いのちの未来」パビリオンの建築コンセプトや基本設計をもとに、実際の建設を行ったのが長谷工グループ(以下、長谷工) です。今回は、パビリオンの施工管理における工事責任者を担った同社の江口隆一さん、殿村侑司さんと、プロデューサー 石黒浩と同社が実施した「未来の住まいミーティング」のメンバーであり、パビリオン建設のプロジェクト責任者を担った大西広望さんにお話を伺いました。当パビリオン建設の挑戦と工夫、完成後の思いに迫ります。

通常の協賛から設計協力・施工による現物提供協賛へ

2021年秋、長谷工はいち早くテーマ事業としての「いのちの未来」への通常の協賛を決定していましたが、同時期に石黒から「長谷工さんに建設もお願いしたい」と打診を受けたときには社としては即断できなかったと大西さんは振り返ります。

「私たちの主戦場は集合住宅の建設。過去にパビリオンのような施設の建設経験がなかったため、社内関連部署から技術面やコスト面などについてさまざまな意見が出て、決定までには1年近くの検討期間を要しました」

2022年秋にようやくパビリオンの設計協力・施工による現物提供協賛(サービス、技術、施工などの“現物”を提供する形の協賛のこと)に変更することが決定。それには、石黒からの言葉も大きな後押しになったそうです。

「現物提供協賛への検討と同時並行で2022年夏よりアンドロイドとマンション、いのちと暮らしなどに焦点をあて、未来の集合住宅(マンション)について石黒先生やメンバーと多彩なディスカッションを行う“未来の住まいミーティング”を行っていました。ミーティングを重ねたある日、石黒先生より“思いを共有しているからこそ、パビリオンの施工についても具現化できるはず”といったお言葉をいただいたのです。先生からの強い思いを感じ、やはり期待に応えねばと決意しました」(大西さん)

準備期間を経て江口隆一さんは2023年6月、殿村侑司さんは2023年の11月に工事責任者として任命されました。二人ともとても驚いたといいます。

「鉄骨工事の経験はありましたがやはり今まではマンション建設が中心でしたから、驚きました」(江口さん)

「びっくりはしましたが、今後携われるプロジェクトではないと思ったので、うれしかったです。誇れる仕事をしよう!と気合いを入れました」(殿村さん)

多くの関係者から丁寧に話を聞き、情報を共有しあうところからスタート

江口さん、殿村さんは建築チームが作成した図面をもとに、石黒、建築チーム、展示チーム、博覧会協会、展示工事業者……など数多くの関係者との丁寧な打ち合わせ、ヒアリングからはじめました。

「関係者が非常に多いため、それぞれの要望を細かくヒアリングし、調整をしていくことが大切でした。どのように造り、どのように仕上げていけば各関係者の要望に近づけられるのか……、図面や写真をお互い共有し、細かくすり合わせを行っていきました。工事に使用する製品は実際に自分たちの目で見ないとわからないことも多いため、各地から国内4~5箇所ほどの工場に各自で集まり、資材の確認・検査を行ったりしました」(殿村さん)

そして、建築チームが作成した設計図書をもとに、工事に必要な業者との契約、業者手配、工事工程の組み立て、安全管理を行いながら建物を造る……というプロセスを、施工管理関連担当6名と図面担当2名の現場運営、そして構造・技術関連部署、環境関連部署、事務関連部署などワンチームで社内調整などを行い、進行していきました。

環境配慮型のコンクリートを使用

「特にこだわったのは、弊社独自開発の環境配慮型コンクリート“H-BAコンクリート”を採用したことです。製造時にCO2の排出量を削減しながら一般のコンクリートと同等の性能を有するため、持続可能性を重視する今回の万博にふさわしい材料だと考え、建築チームに熱意を持って提案し賛同を得られたものです。工事着工前の時点ではまだ使用実績が少なかったため、弊社にとって大きな挑戦になりました」(江口さん)

「埋め立て地という会場の特性上、地盤沈下への配慮から軽量コンクリートを使用する設計仕様になっており、H-BAコンクリートを軽量化することも必要になりました。工事段階ごとに建物の四隅で建物・地盤レベルを計測し不同沈下(建物が不ぞろいに沈下を起こすこと)が発生していないか確認を行ってから、次工程に着手するといった今までには検討したこともなかったような工事確認も必要となりました」(殿村さん)

当パビリオンのクモの巣状に張りめぐらされた鉄骨形状と上下方向にも円形を描くような特殊な形状を実現するためにも、工夫を重ねていきました。

「鉄骨図面の確認は、3Dビューアにて何度も納まりを確認しました。施工においても1㎜のズレが全体を通して大きなズレにつながってしまうため、各部材セット毎に測量を行い、いつも以上に各工事には時間を費やし、より一層の施工精度確保に努めました」(殿村さん)

水の流れや止水対策(建物や土木構造物などに水の浸入を防ぐための対策)にも力を尽くしたといいます。

「建物の大きなテーマに“渚”があり、石黒先生もこだわっていた部分だったので、いかに思い描いた形で波形を出し水を流せるか、止水ができるかを試行錯誤しながら形にしていきました」(江口さん)

日数不足、人材不足の問題に工夫と協力の力で立ち向かう

他の多くのパビリオンも直面していた、納期内に完成させること、人材不足に対応することにも、心血を注いだといいます。

「工事日数に余裕がなかったため、現場以外でできることは社内でフォローする体制をつくり、工事を少しでも早くすすめる計画を立案。無理、無駄のない工事管理を徹底しました。特に、足場を組み立てずに外装膜工事を行えないか検討し、万博会場敷地内の道路、さらには隣接パビリオンの敷地をお借りしたりして、高所作業車から工事をする計画を採用しました。万博協会さんや隣接パビリオンの担当者の方に相談し、調整、協力いただくことで工期を短縮できました」(殿村さん)

「多くのパビリオンが業者の方々の人手不足状態でしたので、これまでのつながりの中から人材を確保すべく動いたり、特定の業者さんしかできない工程で待ちが発生したときには、当初予定していた施工順序を変更して、今いる人材でできることから先にすすめたりと、臨機応変に進行していきました。それらが功を奏し納期内に完成させることができました」(江口さん)

シグネチャーパビリオンの中で一番早く完成!多くの反響が

江口さん、殿村さんのリーダーシップのもと細やかな数々の工夫を積み重ねたことで、シグネチャーパビリオンの中で最も早く建物の引き渡しが実現。関係者からはうれしい反応が相次ぎました。

「石黒先生が“万博の中で一番よい建物ができた”と言ってくださり、とてもうれしかったです。社内からは“どうやって造ったの!?”という驚きの声も多く出ました」(殿村さん)

「建物の引き渡しの際には関係者の方が涙を流して喜んでくださり、苦労して工事を行ってよかったと私も一緒に感動してしまいました。実は着工後の4か月の間、施工管理担当は私ひとりで工事を指揮していました。その後、殿村さんという大きな戦力が加わってくれましたが、あのときもよく辛抱したな、頑張ってよかったなと改めて思いました。殿村さんにも改めて感謝です」(江口さん)

「社内から“これはすごい!”、“よくやったな!”というお褒めの言葉がありました。私がさらにうれしかったのは、江口さん、殿村さんが社内の賞を受賞したことです。建設関連のプロジェクトでの受賞は初めて。ここまで尽力し、無事故、無災害で完成まで成し遂げてくれたのだから、お二人の今後のキャリアアップにもつながると思っています」(大西)

万博会場の中でも存在感を放つ当パビリオンが完成した姿を目にして、三者三様の思いがそれぞれこみ上げてきたようです。

「これまでのキャリアの中で多くの物件を完成させてきましたが、今回はいつもとは異なる感動がありましたね。一番感動したのは、夜にライトアップされたパビリオンを見たとき。いつも見ていた昼間の姿とは異なり、完成したからこそ目にできる夜のパビリオンを見て“すごい建物をつくった“と改めて感じました。また、内部の展示を見学して、マンションを提供する会社として“未来の住まい”とは何かを改めて考えるきっかけをもらいました」(江口さん)

「いい意味で万博らしくない、派手さはないのに目立つ建物ができたな、と誇りに思いました。内部の展示工事は弊社の担当ではなかったのですが、完成後に内部を巡ると意匠としてこんなに変わるのか!と驚きました。建物自体の施工も大切ではありますが、仕上げや見せ方の工夫などの大切さを改めて感じました」(殿村さん)

「約3年半のプロジェクト開始から携わっていた身として、完成を目にしたときは感慨深かったですね。他パビリオンでは国内の名だたるゼネコンが参画する中で、弊社もできる!と信じてはいましたが、万博という特性上、社内であってもプロジェクト外の人には情報開示が難しい部分もあり、“本当にできるの?”なんて無邪気に聞かれても答えられないことが多くて辛かったんです。だから、やっと社内の人たちにもお披露目できる!と、ほっとした部分も大きかったですね」(大西さん)

「生きるとは何か?」パビリオンを訪れて考えてみて

最後に、三名に万博に来場予定の方へのメッセージをお願いしました。

「当パビリオンに限らず、万博に来場していただいて損はないと思います。今後について考えさせられるところ、見た目で感動させられるところ……いろいろです。今感じなくても今後、見て感じた経験がどこかで人生の役に立つのではないかと思います。迷っておられる方は、ぜひ来場していただきたいですね」(殿村さん)

「個々人が考える余白を残してくれている、問いのあるパビリオンだと思います。個人的には、1000年後の世界をイメージしたZONE3に感銘を受けました。あの音と光とアンドロイドの調和は言葉で表すことができません。ぜひ足を運んで感じてみてほしいなと思います。また、昼間に入館した方も、夕方から夜のライトアップされたパビリオンの姿もぜひ見学してほしいです」(江口さん)

「非現実的な未来ではなく、子どもから大人まで“いのちとは、生きるとは、死ぬとは”というテーマを考えさせられるパビリオンだと思います。訪れるたびに気づきがあったり、考え方が変わる可能性があるテーマなので、できれば何度も足を運んでもらいたいなと思います。ZONE2で繰り広げられる50年後の未来シーンには弊社の共創メンバーが考えた住まいに関する未来プロダクトも登場していますので、そちらもぜひ注目してください。また私や弊社のメンバーと石黒先生で行った“未来の住まいミーティング”の内容が『アンドロイドはマンションの夢を見るか?』という書籍になりました。コミュニティの重要性、アンドロイドとの融合の実現性、超自然といった住まいの未来像を感じられる内容になっているので、パビリオンを訪れる前後にぜひご一読いただきたいです」(大西さん)

取材日:2025年5月

【プロフィール】

長谷工グループ
https://www.haseko.co.jp/hc/
長谷工グループは、設計施工・販売・管理・修繕など、分譲マンション事業を中心に、多様化するライフスタイルや日本を取り巻く社会課題や社会環境の変化に対し、ハード・ソフトの両面から、住まいとそれに関連する各種サービスを提供しています。