「いのちの未来」Creator’s Voice Vol.1~secca~ 1000年後のいのち“まほろば” ・50年後の未来 美術協力

「いのちの未来」Creator’s Voice Vol.1~secca~ 1000年後のいのち“まほろば” ・50年後の未来 美術協力

株式会社雪花
上町達也さん 柳井友一さん

普段の仕事内容

上町さん
代表取締役として自社の組織の目指すべき未来、ビジョンを描き続けることです。また、自社で唯一無二のものをつくること、コンセプトメイキング、企画、プロダクトデザインの骨格づくりをすること、他社とのデザインの仕事にも取り組んでいます。

柳井さん
自社のクリエイティブ統括をしています。自分たちの工房で手を動かしながらモノづくりを推進したり、コンセプトを世の中にインストールするために素材を活用しながら可視化したりしています。

「いのちの未来」における役割

パビリオンにおいて描きたい未来はどういうものなのか、ということの言語化から可視化を役割として与えていただきました。seccaの拠点である工芸が根付いた街・金沢から、手仕事を通して、人の未来やぬくもりをいかにロボットに織り込んでいくかという挑戦になったと思います。

パビリオンでの担当とその内容

「ZONE3 1000年後のいのち“まほろば”」においては、1000年後の人類が置かれている状況は?そのとき人々が思い描く望みは?自分たちが実現したい人類の姿とは?といったコンセプトの議論に参画させていただきました。

「ZONE2」で登場するロボット「ペトラ」においては、アンドロイド・ロボット デザイナーの松井龍哉さんが企画したデザインの骨格を具現化する役目を担いました。
また、アンドロイドアバター「ユイ」のパーツの一部制作も行いました。

パビリオンや展示、制作物のコンセプトをどう捉えたか

上町さん
<ペトラについて>
今までは、関節、ギア、ヒンジ……といった機械の構造そのものがロボットの象徴だったと思いますが、テクノロジーの進化に伴ってロボットは生命体のように人間の身近な存在になるという松井さんの考え方に大変共感しました。だからこそ、石や水といった日々慣れ親しんでいる存在と同質化していく、言葉を発さなくてもあうんの呼吸で存在してくれる、という日本人らしい精神的な美徳をベースにしたロボットづくりにこだわりました。
<ZONE3 1000年後のいのち“まほろば”について>
石黒先生は「物理的な肉体から早く解放されたい」とよくおっしゃっていて、その在り方を今回可視化することによって、「人間の価値とは何か」「人類とはそもそも何なのか」という問いに立ち戻るという取り組みだったと感じています。

柳井さん
<ZONE3 1000年後のいのち“まほろば”について>
肉体から解放されて、進化の過程として足が短くなっていたり、肌が桃色になっていたりする「1000年後の人の姿」に衝撃を受けました。未来をディストピアにせずに明るいものとして見せる、表現の一端を自分たちも担うのだという命題を与えられたと感じました。

プロデューサー 石黒浩との関わりで印象に残っていること

上町さん
我々クリエイターは石黒先生が思っていることを実現する役割としてアサインされたと思っていたのですが、初回のミーティングにおいて石黒先生から「あなたたちクリエイターが思い描く未来って何なの?」という問いを突きつけられたんです。それを聞いて、各クリエイターの発想も尊重してこのメンバーでしかつくれないものを目指そうとされているんだと感じ、モチベーションが一気に上がりました。

柳井さん
初めてお会いしたときの印象は「少年のような方」。まっすぐモノづくりを愛していらっしゃる姿、ピュアな思想を持ってらっしゃるところに大変共感して、人としての魅力も感じました。

挑戦、工夫、こだわり

上町さん
<ZONE3 1000年後のいのち“まほろば”について>
最初は哲学的な問いに対峙するというのが難しかったです。「1000年後の人間」にはもう肉体は存在していないかもしれない、物理的な制約がなくなっているかもしれない……という議論は、私自身の想像の域をはるかに超えていました。だからこそ、思考を巡らせる挑戦になりました。

<ペトラについて>
万博という場では多くの人が「そんな未来に向かってみたい」と思えるような希望や可能性を見せる必要があると考えていたので、リアリティを損なう張りぼてやフェイクのようなものにはならぬよう、こだわって制作しました。

柳井さん
<ペトラについて>
やはり張りぼてのようなものにならぬよう、本物の素材を使いたいという思いは強く持っていました。ですから、ペトラについても石をくりぬいてその中にロボットとしての駆動部を入れようと、日本全国の石を調査しました。さまざまな制約上それはかなわずにメインは偽石になったのですが、それ以外は自分たちで山に入って木材を拾いにいったり、御影石の粉末を実装したりと、自分たちの足で素材を探して、ロボットのマテリアルにいのちを吹き込む作業をしました。これは、私たちにとって「人工的な素材をつくる」という新たなチャレンジでした。素材以外にもさまざまな制約がある中で松井さんをはじめとしたメンバーで試行錯誤しながら、3~4バージョンほどのペトラをつくり、最終的に納得のいくペトラを誕生させることができました。

新たな発見

上町さん
私たちは「人の心をいかに動かすか」ということを普段から大切にして活動しています。今回ロボットを扱ったことによって「動くモノ」はよりインタラクティブな関係性を生むのかもしれない、より精神的な距離を縮めるのかもしれない、と発見することができました。今後ロボットと関わり続けることで、私たちの目標である「人の心を動かす」ことを、より実現していける可能性があるのかもしれないと感じています。

柳井さん
今回、テック系のエキスパートの方々やロボットと向き合うのはワクワクした取り組みでした。自分たちの思いをテクノロジーに重ねることで新たな世界が見えること、その楽しさを発見できたと思います。何千年も前につくられた縄文土器を見て心が躍る瞬間があるように、物体は時を超えて人の心を動かす存在だと思っています。動くモノ、動かないモノ含め、これからもそういった人の心を動かし続けるモノづくりをしたいですね。

プロジェクトで得た学び

上町さん
何よりも、石黒先生の問いとそれをチームでカタチにしていくというプロセスが刺激的でした。そうすることで、「人間とは何か」という問いを共有するための機会をつくることができた、という感覚があります。個人的には、モノづくりに携わる者として、なぜモノをつくり、届けたいと思うのか……という自分の内面にもっと向き合うきっかけもいただけたような気がします。そうやって向き合っていくことで、届ける相手の内面的なところにも近づいていけるのかもしれないということを学べたような気がします。

柳井さん
松井さんやアンドロイド衣装のデザイナー・監修を手掛けられた廣川さんなど、チームの皆さんの物事への「深掘り力」に驚かされました。幅広い書物を読まれていて、人類が積み上げてきた歴史や価値にいろんなヒントがあることに改めて気づかされました。私たちもそういった視野を広げることで、引用したり、過去から現代、未来につなげたりするようなモノづくりに挑戦していきたいと感じました。素晴らしい刺激をいただけました。

注目してほしいポイント

上町さん
ZONE2のストーリーを通じて、近い未来に自分が遭遇するかもしれないことを想像してみてほしいです。その未来をよりリアルに体感してもらうロボットとしてのペトラも見ていただけるとうれしいです。
ZONE3に関しては、人によって「おもしろい」「怖い」など異なる印象を抱くのではないかと思います。でもその印象だけで終わるのではなく、こんな人類になったらいいなと思うのか、こんな未来は望まないと思うのか、その人なりに思考を巡らせてもらえたらなと思います。そうすることで、今まで考えてもみなかった領域の未来について思いをはせることができ、私たちが伝えたい真意に迫ってもらえるのではないかなと思います。

柳井さん
ZONE2においてはロボットやアンドロイドと人間が一緒に生活をする一端を垣間見られるので、注意深く周りを見渡しながら発見してほしいです。日常に溶け込んだロボットやアンドロイドを機械として見るのか、そうではないのか……というこれからの倫理観に関わるテーマを、今の段階から考えるよい機会になると思います。ペトラに関しては、人間の姿にロボットを近づけていくのとは異なる方向性で、自然物によっていのちを吹き込まれている愛らしいロボットですので、その魅力もくまなく見てほしいですね。パビリオンに提示されているような未来にしたいのか、したくないのかはこれからの世代が考えること。その考えるきっかけになるパビリオンだと思っています。