「いのちの未来」Creator’s Voice Vol.7~菊地あかね~ 1000年後のいのち“まほろば” ・50年後の未来 アンドロイド所作デザイナー
株式会社KiQ
菊地あかねさん
普段の仕事内容
KiQという会社でクリエイティブディレクター、所作デザイナーをしています。ロサンゼルス、東京でデザインファームを運営しており、グローバルなチームであらゆる体験の設計やブランディングを担っています。また「Shosa Lab」というラボを立ち上げ、人間の振る舞い、心の動きを含めた「所作」の研究を行っています。日本の多くの伝統文化が存続の危機に陥っている中で「所作」という感性を通して日本文化の価値観をグローバルなクリエーションの力で底上げしていきたいと考えています。「所作デザイナー」は、今後のAI時代において日本ならではの所作や心の動きをいかにインターフェースに落とし込んでいけるのかを考える重要な職業にもなると思っています。
「いのちの未来」における役割/パビリオンでの担当とその内容
「ZONE2 50年後の未来」においてアンドロイドの動きをどのようにするかということを、石黒先生、エンジニアのみなさん、各クリエイターのみなさんと議論をしながら、振る舞いのデザインをつくり上げていきました。また、「ZONE3 1000年後のいのち“まほろば”」においては動きのプロとして、どのようにしたらアンドロイドたちが人間らしくなるのか、未来の人間はこういう風に振る舞うんじゃないかということを、コンセプトとして落とし込むという役割を担いました。
パビリオンや展示、制作物のコンセプトをどう捉えたか
以前から石黒先生と共同研究を行いともにアンドロイドの動きもつくってきたので、まさにその延長線上の世界観だと感じました。一貫した石黒先生の哲学をベースに、もっともっと未来のことを考えることができ、とてもワクワクしました。
プロデューサー 石黒浩との関わりで印象に残っていること
人間ってなんだろう?人の心ってなんだろう?という普段の仕事ではなかなか考えることのない石黒先生ならではの核心を突いた問いを共有していただき、一緒にパビリオンという形にしていけたことです。そしてそれを来場者のみなさんに共感、体験していただけたことで、やっと答えに近いものが見えてきた気がしています。
こだわり
国、世代、職業もバラバラな多様な人が訪れる万博という場であるので、アンドロイドをユニバーサルな所作デザインにすることをこだわりました。あらゆる文化圏を想像できるような、あらゆる人種の人が美しいと思うようなアンドロイドの振る舞いとはどういったものか、ということを全身の動きに落とし込んでいったのです。エンジニアの方々にもそれらを共有してディレクションしていくことは大変でしたが、多くの方からよい評価をいただけたのでうれしく思っています。
挑戦、工夫
今回のプロジェクトには「所作」という考えになじみのないメンバーもいらっしゃったので、目指す世界観を共有することから始めました。その上で、私自身がアンドロイドになったつもりで振る舞い、「このシーンはこんな気持ちだから、こういう振る舞いで表現します」と実況中継的に説明して、感情の波を動きに実装していただきました。このプロセスを何度も繰り返すことでアンドロイドの所作や振る舞いをブラッシュアップしていきました。
新たな発見
これまでアンドロイドは見せ物的な存在であったり、人間の言うことを聞いてくれる存在であったり……と、人間より少し下の存在という印象を持つ人も多かったかもしれないのですが、今回パビリオンではロボットと自分たちがいかに一緒に進化していくかといったことを体験できると思うので、それは世界的に新しい発見だと思います。パビリオンで表現したテクノロジーを感じさせないテクノロジー、クリエイティビティが今後の指標となり、これからの未来をつくる世代の教材のように時代に残っていってほしいなと願っています。
プロジェクトで得た学び
非常に多くの人たちとひとつのパビリオンをつくる中で、アイデンティティや振る舞いをつくるという「所作」という要素を担う中で、他者と共創しながらもクオリティをどう保つべきかという部分はとても苦労しましたし、学びになったと思います。完成した今、ほっとした気持ちになっています。
注目してほしいポイント
私が一番力を入れたのは、電車のシーンです。お客さんと一緒に電車での体験を楽しんでいる男の子のアンドロイドの振る舞いに臨場感が出るよう工夫したので、ぜひ見ていただきたいです。また、最後のシーンは一流のクリエイターが集まって誰も見たことがないシーンをつくっており、幻想的な未来の美しい人間の様子が垣間見ることができると思うので、ぜひ注目していただきたいです。全体を通して、パビリオンの中ではアンドロイドが人間の延長として存在しています。機械としてではなく、生き物としてのアンドロイドを楽しんでいただけたらと思います。