2021年に立ち上がった「いのちの未来共創プロジェクト2025」では、プロデューサー 石黒浩と参加企業7社(株式会社 長谷工コーポレーション、コクヨ株式会社 、塩野義製薬株式会社、シスメックス株式会社、一般社団法人 全国介護事業者連盟万博コンソーシアム2025、株式会社デンソー、阪急阪神ホールディングス株式会社)が中心となり、50年後(2075年)の社会といのちの在り方を考察。そこで生まれたアイデアの一部は、パビリオンの未来シナリオや技術として取り入れられる予定です。第3回全社共創ミーティング(以下、全社共創MTG)では、プロジェクトの第2タームの総まとめとして、各企業から世界観とシナリオ構想の発表などが行われました。
前回の全社共創MTGの様子はこちらの記事をご覧ください。
具体的な形として見えてきた7つのシナリオ構想
ミーティングの前半は、これまで各企業が重ねてきた抽象的な議論やアイデアを具体的な世界観とシナリオ構想へと昇華させ、集大成として共有し合う時間。そのため、世界観とシナリオ構想の発表は、それぞれが専門とする事業領域を踏まえ「街→移動→暮らし→心身の在り方・健康→生き方・自分らしさ」と今後シナリオが緩やかにつながっていくことを想定した順番で披露。各構想は具体的なシーンやケースの分析・検討にまで及び、そこには未来を丁寧に見つめ、練り上げてきた世界が広がっていました。
各企業が検討した世界観やシナリオ構想
※一部を抜粋・編集
阪急阪神ホールディングス株式会社
駅や施設などリアルな空間を持っているので、そうしたリアルとバーチャルの良さを比較検討して整理した。それらを踏まえ、バーチャルとリアルの良さが混ざり合った環境を「公共空間」「野球観戦(甲子園)」「演劇鑑賞(宝塚歌劇)」の3つのケースで考察。
株式会社デンソー
想像力を高める移動について、フィジカルでの体の喜び、バーチャルでの脳の喜びの移動を相互に繰り返し行うことで、人は進化していくと考えた。ここから具体的に社会・暮らし・個人の3シーンをシナリオ構想として描き、今後PoCにて検証していく予定。
株式会社 長谷工コーポレーション
未来の家は、学習したり自己修復できたり意思疎通ができたりと「生き物」のようになっていると想像。また、未来の家族は「属することで自分らしく生きられる集団」と定義し、物理的・時間的制約から解放されることで、多様性と広がりが生まれると考えている。
塩野義製薬株式会社
2075年には病気/健康の価値観は、本人の認識で変わる時代になり、「個々の生きる上での活力を満たしているかどうか」で判断する時代になるのでは。その上で、健康でいるためにどうしたらいいか、その方法にまで思考を広げていった。
シスメックス株式会社
「こころ」とは何か改めて定義。こころを鍛えるとは頑強さだけでなく「-」から「±」や「+」に変化するしなやかさも併せ持つと捉えた。さらに、こころを測るためのモニタリング対象、50年後の実装に向けたこころの可視化イメージ、こころを鍛える方法について検討し、シナリオをブラッシュアップ。
一般社団法人 全国介護事業者連盟万博コンソーシアム2025
未来の社会では医療技術の進歩により、身体機能が衰えず若い容姿のまま100歳以上生きることが当たり前になる。現在のような介護を受ける概念はなくなり、だれもが人生を謳歌できるように。死は突然訪れるものから、予測された死に能動的に向き合い、その先をデザインするものになると考えている。
コクヨ株式会社
AIの発達により知識学習から解放され、より個人の好奇心や興味にフィーチャーした価値活動のようなものが、未来の学びになっていく。その中でコクヨは、レコメンドやアドバイス、可能性の示唆を通じて人に寄り添う学びを支援していくのではないか、と考えている。
企業からの発表を聴いた石黒は「どの構想も以前にも増してリアリティが高まり、しっくりくるようになった」とコメント。同時に「昨今、ChatGPTが代表するようにAIもロボットも急激な進化を迎え、50年後にはその革新はより著しいものとなる。だからこそ、さらに一歩進めたイマジネーションが必要。また議論していきましょう」と次タームに向け、士気を上げていく言葉を掛けました。
2075年の世界で主題となり得るキーワード
7社の発表に対して、技術協力のブロンズパートナーでありオブザーバーの株式会社堀場製作所から、世界観を下支えするアイデアとして「都市環境」をテーマにした提案がありました。2075年の世界では、エネルギーや資源循環をミニマル単位(自然と調和しながらサステナブルに暮らせる最適な単位)で実現する技術により、「創活*」が暮らしの中心になっていると推測。そして人々が固定観念や物理的な制約から解放され、創活を通じた自己実現ができる暮らし方へとシフトする未来が提示されました。
さらにミーティングの後半には、各企業のシナリオ構想を基にした一連のシナリオプロットが初めて発表され、プロットに対するワークディスカッションやフィードバックを実施。高揚感に包まれる中、「この展示ゾーンはシグネチャーパビリオン『いのちの未来』の一部分。約25分間で巡る展示として仕上げる必要があるので、表現したいことをうまく組み込んでいかなければ」という石黒の総括で締めくくられました。
*創活:生きるための活動から、 再生・創造・共有で価値を生み出し合える活動へ人類の営みが進化すること。
ミーティング終了後の懇親会は、各発表に対する石黒のフィードバックの深掘りもあり、早速カジュアルな意見交換が行われました。また、シナリオプロットの発表により、言葉だけでなくビジュアルイメージでの未来が見え隠れし、企業同士の交流も一段と深まった様子でした。次タームから本格的に始まる、各企業のシナリオ構想を紡いで描かれるシナリオ制作。そこに向けて、未来の輪郭がまたひとつ浮き彫りとなっていきました。