【開発秘話♯4~アンドロイド開発編~】メンバーの多様性を生かし“人間らしい”アンドロイドの制作に挑む
シグネチャーパビリオン「いのちの未来」では、現在―50年後―1000年後を想定したさまざまなロボット・アンドロイドとの出会いが待ち受けています。そのうちアンドロイドの開発を担当しているのが、アンドロイド開発・製造・販売・運営サポートの事業を行う株式会社エーラボ(以下エーラボ)の多彩なスタッフのみなさんです。今回は、プロジェクト全体の開発過程を統括している同社ブランドマネージャーの廣嶋まいさんに、「いのちの未来」のアンドロイドを開発する現場の挑戦についてお聞きしました。
万博ならではのアンドロイド制作は、はじめてだらけ
マツコロイド、漱石アンドロイドなど、世の中を驚かせたアンドロイドの制作を、テーマ事業プロデューサー 石黒浩とともに手掛けてきたエーラボ。石黒から数年前より「万博に向けて山のようにアンドロイドをつくってもらうから、よろしくね」と声を掛けられていたといいます。
「その言葉どおり現在、これまでにない数のアンドロイド制作に奮闘しています」
今までは半年に約1体のペースで制作を行っていましたが、現在は万博に向けて約2年で20体ほどを完成させようとしているというのだから、相当な変化です。さらに数だけでなく内容も今までのアンドロイド開発とは異なるものだと廣嶋さんは説明します。
「今までは誰かモデルがいるアンドロイドを制作することがほとんどでした。ところが今回制作するアンドロイドはモデルがおらず、人種や肌の色にも偏りのない、どの国から来た人でも受け入れられるようなものを目指すという点ではじめての試みでした」
人種や国籍、性別に偏りが出ぬよう、白すぎず、黒すぎず、かといって黄色人種でもなくという繊細な肌の色味。男性でも女性でもない中性的ないでたち。万人に受け入れられやすい柔らかいフォルム……。さまざまな人種、国籍、価値観を持つ人々が訪れる万博ならではのよいあんばいを探りながら、制作をすすめているのです。数も内容も異なるアンドロイド制作にチャレンジすることになり、プレッシャーを感じつつも、社内は前向きな空気で満ちていると廣嶋さんは感じています。
「万博という大きなプロジェクトに参画できるということはもちろんですが、アンドロイドが未来社会の中でどのように展開していくのか、アンドロイドやテクノロジーによって人間のいのちがいかに拡がるのかという、かねてより石黒先生が紡いでこられた構想をついに可視化するという貴重な機会をご一緒できることにワクワクしているのです」
デジタルの緻密さと手作業の表現力で生み出す新たなアンドロイド
廣嶋さんはじめ長年にわたり石黒とともにアンドロイド制作を行ってきたスタッフはもちろん、新しく入社してきたスタッフの方々の士気も高まっているといいます。ここ数年で3~4名を採用し、全員で17名。全スタッフが同じ方向を向くことができたのは、石黒チームとの直接の対話も大きなきっかけだったそう。
「石黒先生や協働メンバーのみなさんと我々エーラボのスタッフが集まり対話する機会が、今まででも複数回ありました。最近入ってきた新しいスタッフも石黒先生から直接、パビリオンを通じて何を伝えたいと思っているのかという部分を聞くことができ、思いを同じくすることができています。“人間はみな、最後は星になるんだよ”という先生の言葉に“えーっ!”とみんなで興奮して夢中になって話を聞いていました。また、先生や協働メンバーのみなさんから“世界から注目されるパビリオンの中のメインともなるアンドロイドをつくるのがあなた達だよ”と鼓舞していただいて、ますますモチベーションが高まっていますね」
万博プロジェクトを見据えてエーラボが採用した新しいスタッフの経歴は、特殊メイクや舞台美術を学んできた人、義足づくりに携わってきた人、アート系の制作活動を行ってきた人など多岐にわたっています。今までアンドロイドの世界には無縁だったとしても新しいことに挑戦したいという思いを持っている人を採用したのだといいます。
「新しいスタッフの加入によって、より多様性のある職場になってきていると感じます。今回のプロジェクトでは石黒先生の意向もあり、アンドロイドに今まで以上に人間らしい豊かな表情を持たせることを目標にしていますが、その過程においても多様な経験を持つスタッフの意見や技術がプラスに働いていると感じます」
アンドロイドのまばたき、口の動き、表情のひとつひとつを丹念に調整し、”人間らしさ“を追求している今回のプロジェクトでは、今まで手作業で行っていた肌や顔、手といった外装の造り込みにデジタル造形を導入する試みも行っています。
「今までは粘土を使って手作業で型をつくっていましたが、その作業がCGに置き換わったことで同じ造形をつくる際の再現性の精度や作業効率が高まっています。ただ、アンドロイドに人間らしさをもたらす細かな表情の調整などはまだ人の手の方が勝る部分もあったりするので、デジタルの緻密さと手作業の表現力を掛け合わせながら、取り組んでいる状況です」
エーラボにとっての新しい挑戦は他にも進行中です。一部のアンドロイドの駆動装置をエーラボの主流である空気圧駆動ではなく、モーター駆動で動かそうとしているのです。
「エーラボが普段活用している空気圧駆動の場合、耐久性やメンテナンスの容易さなどにメリットがあるため、長期間展示する万博の場でも多くのアンドロイドで活用する予定です。一方、より表情にこだわりたい一部のアンドロイドでは正確で機敏な動きが可能なモーター駆動を活用します。人間らしさは目に宿るという石黒先生の考えを具現化するためには目を速く動かす必要があり、モーター駆動が最適なのです。ところが、壊れやすいという欠点もある。その点を克服すべく、挑戦を重ねているところです」
前例のないチャレンジの連続でも、ものづくりの楽しさに目が輝く
モデルのないアンドロイドの制作、デジタル造形の導入、モーター駆動活用……と、複数の領域にわたり新たな挑戦に取り組むことになった今回の万博プロジェクト。エーラボの社内では混乱は生じていないのでしょうか。
「もちろん大変ではあるのですが、新しいチャレンジが必要な開発に携わっているとき、スタッフの目は輝いているんです。例えばアンドロイドの肌ひとつとっても、どんな色がいいか?新しく使える素材はないか?と自由に試行錯誤できるという新鮮な機会をみんなで楽しんでいます。やっぱり我々はものづくりが好き。万博のプロジェクトによって今まで以上に社内のコミュニケーションが活性化され、一体感が増したように感じています」
そう語る廣嶋さんの瞳もどこかキラキラと輝いているように見えます。新たな挑戦を重ねるエーラボが開発する新しいアンドロイドの数々にぜひご注目ください。
株式会社エーラボ
https://www.a-lab-japan.co.jp/
人間に酷似した外観を持つヒューマノイドロボットであるアンドロイドおよびその関連技術の開発・制作を目的とし、2011年に設立。大学研究機関向けの研究機材を中心に、アンドロイドを開発・制作する。これまでの実績に、「ERICA」、「マツコロイド」、「漱石アンドロイド」、アンドロイド観音「マインダー」、「渋沢栄一アンドロイド」、Technische Universität Darmstadt(ドイツ・ダルムシュタット工科大学)の「エレノイド」、Fondazione Prada(イタリア・ミラノ)の男性アンドロイドなど。