【開発秘話♯5~シナリオ制作編・前編~】脳を刺激される数々の対話を経て、シナリオ制作へ
シグネチャーパビリオン「いのちの未来」内では、来場者が50年後(2075年)の社会といのちの在り方を体験、想像することができる「未来シアター」が展開されます。この「未来シアター」内での体験やストーリー、展示空間のシナリオ制作を担当したのが「CHOCOLATE Inc.」(以下、CHOCOLATE)。同社のチーフコンテンツオフィサー / クリエイティブディレクター栗林和明さんと空間演出家 / プランナーの岡崎アミさんにお話を伺い、シナリオ制作の裏側に迫りました。今回の前編では、コンセプト理解の段階からシナリオ制作のプロセスについてご紹介します。
アンドロイドや未来への認識が覆された、インプットの日々
プロデューサー 石黒浩とシルバーパートナー以上の協賛7社(以下、共創企業)による「いのちの未来共創プロジェクト2025」が開催した複数回の共創ミーティングを経て生み出された、各共創企業それぞれの特色ある未来構想やプロダクトアイデア*とアンドロイドやロボットが共存する世界を「未来シアター」のシナリオに落とし込むという重要なミッションを任されたCHOCOLATE。栗林さんはその責任の大きさに身が引き締まったといいます。
*共創企業のプロダクトアイデアについての詳細はこちらをご覧ください。
「ここまで多様な企業が、意見・アイデアを出すプロジェクトはそうありません。しかも、それぞれの方々が多大な熱量を持っているからこそ、そこで伝えるべきものに優劣をつけることはできない。つまり伝えるべきこと、解決すべき課題が相当量のため覚悟が必要でした」(栗林さん)
実は当初、このパビリオンのテーマである“いのちを拡げる”、“生きたいいのちを自ら設計することができるようになる”といった考え方についてCHOCOLATEのメンバーは咀嚼しきれていませんでした。
「石黒先生との初めての顔合わせにおいて、私たちなりにイメージした未来を描いた参考画像をお見せしたのですが“君が描いた未来のようには絶対にならない”と一蹴されてしまったんです。その頃は、確かに先生の考えていることやパビリオンで表現しようとしていることが理解しきれていなかった。石黒先生や共創企業の皆様からプレゼンテーションを受けたり対話を重ねたりしていくうちに、本質が理解できるようになってきました」(栗林さん)
「石黒先生や各共創企業の皆様とのミーティングでは常に、普段とは異なる脳みそを刺激される感じでした。栗林の言葉を借りると“日本一贅沢なゼミに出席している”というような時間で、毎回自分の中の常識が塗り替えられ、学ぶ意欲が掻き立てられました」(岡崎さん)
その経験は、CHOCOLATEのメンバーのいのちの多様さへの気づき、アンドロイドに対する認識も変えていきました。
「中でも印象的だったのは石黒先生がおっしゃった“たとえアンドロイドに姿を変えたとしても、他の人がその人だとみなしていれば、その人は生きているということ”。確かに自分があるアンドロイドに友情を持っていればそのアンドロイドが生きていると感じられると思うし、自分が生きてきて得た知見をまるごとアンドロイドに引き継ぐことで、次の世代の役に立てる未来もいいな……と、そんな風に思えるようになってきました。また、そういった技術の発展によって人間はより自由になれるんだ、ということも感覚として掴めるようになってきました」(栗林さん)
「アンドロイドは“人間とは別の存在”という認識があったため、人間が身体としてのいのちを終えた後にアンドロイドとして生きる選択肢が出てくる、という未来の構想に驚きました。でも皆様の話を聞いていくうちに現実味を感じられるようになってきて、“栗林さんがゆくゆくアンドロイドになったら、未来のCHOCOLATEのメンバーも仕事の相談にのってもらえるよね”という話が自然に出たり、“これは私が75歳になったときの未来なんだ”と思えるようになったりと、自分ゴト化していきました」(岡崎さん)
何度も何度も練り直し、来場者が自分ゴト化できるシナリオへ
テーマについて理解を深め、「自分ゴト化」したCHOCOLATEのメンバーたち。シナリオづくりはクリエイティブディレクター、統括プランナー、脚本家、体験プランナー、制作プロデューサー、ビジネスプロデューサーに社外の空間演出のプロの方々も加え、約10名のチームで体験やストーリー、展示空間のシナリオ制作に取り組みました。
「体験のベースとなる物語のあらすじを数十通り考えていき、いくつかピックアップ。その後、あらすじをベースにして体験に落とし込んだときのアイデアを無数に考え、それらをもとに構成を仮決めし、アンドロイドや各社の考えたプロダクトアイデアをいかに体験や映像に落とし込んでいくかを考えました。こうやってできた一連のパッケージを予算面、クオリティ面、実現可能性で精査し、改善点を洗い出したら、体験アイデアの企画からの工程を何度も繰り返してつくりあげていきました」(栗林さん)
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構想段階で岡崎さんが作成した模型
より多様なアイデアを生み出すために、アイデア出しやディスカッションはチーム全体で実施。膨大かつ緻密なプロセスを経て石黒チームにプレゼンテーションし、そのフィードバックを踏まえて行った再提案は、10回以上にものぼりました。
「石黒先生からは、アンドロイドや未来の捉え方についてのフィードバックを多く受けました。その中で、どういったことを大切にすべきか、未来をどの粒度で描くか、来場者に何を受け取ってもらうかを掴んでいきました」(栗林さん)
特に石黒が伝えた“来場者に見せつけるのではなく、考えてもらう。来場者がいかに感情的になれるか、いかに自主的になれるかということが大切”という考えは、シナリオ制作のブラッシュアップにおける大きな指針になったと岡崎さんは言います。
「“これが未来です!”と押しつけるのではなく、来場者自らに考える余地を残しておく展示、引き算した演出方法を模索していきました」(岡崎さん)
共創企業の熱量を受け止め、さらに磨きあげていく
石黒チームからのフィードバックをもとに練り上げたシナリオ案は、共創企業にもお披露目され、大きな反響を得ました。
「共創企業の皆様からは、特にプロダクトの見せ方についてのフィードバックを多くいただきました。印象的だったのは、“来場者にどうやったらより伝わるのか”という、よりユーザー目線での意見が多く出たことと、自社のプロダクトが登場しない他社のエリアに関しても多くの意見が飛び交ったこと。どうすればこのパビリオンがよりよくなるのかを真剣に考えている皆様の熱量が伝わってきて、その思いに応えなければ、と強く感じました」
パビリオンのコンセプトの理解を深めた上で、共創企業の未来構想やプロダクトアイデアを落とし込み、石黒チームとのやりとりで何度もブラッシュアップしたシナリオ。後編では、どのようなことを大切にして、どのようにシナリオを磨きあげていったのかに迫ります。ぜひご覧ください。
(取材日:2024年5月)
シグネチャーパビリオン「いのちの未来」50年後の未来 脚本・演出チーム
クリエイティブディレクター:栗林和明 CHOCOLATE Inc.
映像チーフプランナー:小野寺正人 CHOCOLATE Inc.
展示演出チーフプランナー:石倉一誠 meme
空間ディレクター:岡崎アミ CHOCOLATE Inc.
ストーリーディレクター&シアター映像ディレクター:竹林亮 CHOCOLATE Inc.
ストーリーアドバイザー:夏生さえり CHOCOLATE Inc.
プロデューサー:野呂大介 CHOCOLATE Inc.
プロダクションマネージャー:関原崇将 CHOCOLATE Inc.
「CHOCOLATE Inc.」
https://www.chocolate-inc.com/
CHOCOLATE Inc.は、様々なかたちのエンターテインメントを生み出し、たのしみな未来をつくり出していく会社です。 映画やアニメ・キャラクター、展覧会・広告など、世の中の「たのしみなもの」を増やす事業を幅広く展開しています。